11月1日(土)、都内の宝生能楽堂にて、第58回ミス日本コンテスト2026ファイナリスト13名が参加する勉強会が開催された。講師は、能楽シテ方宝生流能楽師の関直美先生。アメリカでの生活を経て帰国後、能の道に進む決意を固め、東京藝術大学受験に挑んだ自身の転機を振り返り、「念じれば花開く」を実体験をもとに語った。ファイナリストたちに、“日本人としての在り方”や“自分の生き方”を考えるきっかけを与えた。 講師を務めたのは 能楽シテ方宝生流能楽師 重要無形文化財総合指定保持者 茶道裏千家 正教授,伝統の橋がかり主宰 関直美先生 関先生は、「能とは何か、そして女性として日本で活躍するために必要なことについて、私の人生経験が少しでもお役に立てれば」と語り、伝統文化を次世代へ継承していくために、一人ひとりができることを考えてほしいと呼びかけた。 能楽はおよそ650年の歴史を持ち、世界で最も古い仮面劇としてユネスコの無形文化遺産にも登録されている。お面をつけた演劇は古代ギリシャ、ローマ、イスラム圏、中国などにも存在したが、日本に伝わったのは7世紀のこと。そこから長い年月を経て、能は淘汰されることなく今日まで受け継がれてきたと語る。さらに、現在の能のスタイルを確立したのは世阿弥であること、そして能にはシテ方・ワキ方・狂言方・囃子方という4つの分類があることについても解説した。 京都の裏千家学園で出会った『念ずれば花開く』ことばの意味 関先生は、「強く念じることが、大きなことを成し遂げる原動力になる」と語り、自身の挑戦ストーリーを例に紹介した。 アメリカの大学を卒業後、現地で働き始めたものの、お母様のご病気をきっかけに帰国を決意。実家がお茶の家元であったことから、自身も茶道の道を歩み始めた。その中で次第に「能楽」への関心が高まり、「能楽師になるために必要なことは何か」を毎日念じるようになったという。そして33歳のとき、能の道へ進むため東京藝術大学受験を決意。海外の大学卒業という経歴ゆえに、日本の大学受験の資格がなく、センター試験から挑まざるを得ない状況だった。時間も限られる中、毎日「芸大に合格しますように」と強く念じ続け、見事合格を果たした。 「誰もが世襲で育つこの世界で、私のような者が合格できるとは思われていませんでした。あれから24年、今こうして能楽師として舞台に立ち続けていられることは、まるで奇跡のようです」と振り返る。 先生は続けて、「何かをしたいと思ったときに、『無理かな』ではなく『できるかもしれない』と考える。できるとしたら、何から始めるかを考えてみること。できると信じて動いたほうが、道は必ず開けます」と、“念じることの力”の神髄を語った。ファイナリストたちは、聞き逃すまいとメモを取りながら真剣に耳を傾けていた。 能楽堂の本舞台へ。緊張と高揚の面持ちで歩を進めるファイナリストたち 能楽堂の楽屋では、ファイナリスト13名分の、異なる種類の能面(おもて)が用意され、おもての説明に興味深そうに耳を傾けた。般若のおもてを前に、先生は「そもそも般若は男性か女性か——」と問いかけ、「答えは“女性”です」と説明。古くは「女性が嫉妬に狂うと鬼になる」といわれており、和装結婚式で花嫁が身につける“角隠し”はその名残とされている。一つひとつのおもてには、デザインだけでなく、それぞれに深い意味が込められている。 通常、一般の人が能楽堂の本舞台や橋掛かりに足を踏み入れることはない。しかし、この勉強会では特別に、能面(おもて)をつけて舞台上に立つことが許された。 その前に、能面を扱う際の注意点について関先生から説明があり、ファイナリストたちは真剣な表情で耳を傾けた。舞台に向かうその姿からは、静かな緊張感が伝わってきた。 能面をつけると、視界が一気に狭くなり、歩くことさえ難しくなる。その中で能楽師たちは静かに、そして力強く舞っている。ファイナリストたちは、想像を超える大変さを身をもって体感し、その瞬間こそが何よりも貴重な学びとなった。この貴重な体験は、人生に深く刻まれる忘れがたい時間となったに違いない。 能面をつけ、日本の伝統文化を体感しながらも、手には現代文化の象徴であるスマートフォン。記念撮影の瞬間を逃さずに写真を撮る姿も見られた。関先生も快くカメラに応じ、厳かな能楽堂の中にも笑顔と和やかな空気が広がった。 ミス日本開催趣旨 ミス日本コンテストは「日本らしい美しさ」を磨き上げ、社会で活躍することを後押しする日本最高峰の美のコンテストです。これまでに芸術芸能、学問研究、医療スポーツ、行政などさまざまな分野で活躍する女性を50年以上にわたって輩出してまいりました。今回もいずれも将来が期待される女性たちが出場いたします。審査基準にも掲げる「日本人らしい美しさ」とは、内面・外見・行動の3つの美しさからなります。これらをかね添えた人物を世に多く輩出し、社会をより良くしてまいります。努力を重ねた女性たちの中から、日本女性の美の最高位として、ミス日本の称号が贈られます。