11月3日(月)、帝国ホテルにて「第38回東京国際映画祭 黒澤明賞」授賞式が開催された。本年度は、『国宝』『フラガール』などで知られる李相日監督と、『ノマドランド』『ハムネット』のクロエ・ジャオ監督の2名が受賞。国際的にも注目を集める授賞式となった。 左から、クロエ・ジャオ監督、俳優吉沢亮、李相日監督 「黒澤明賞」受賞 李相日監督『国宝』『フラガール』 李相日監督は、受賞スピーチの冒頭で「吉沢君、ありがとう。後ろから背中を見ていて、もう女形の背中じゃないなと、役が抜けていることにホッとしました」とユーモアを交えて会場を沸かせた。 続けて、「黒澤明賞という、とてつもない存在感のある賞をいただき、山田洋次監督をはじめ審査員の皆さまに感謝申し上げます。歌舞伎を題材にした映画を作りましたが、“黒澤明”という名前は、歌舞伎でいえばまさに“大名跡”。その最も高い名跡に、アウトサイダーの自分が強引に向かっていくような、そんな怖さと喜び、そして重責を感じています」と胸中を語った。 さらに、「このような場に、尊敬するクロエ・ジャオ監督とご一緒できることを光栄に思います。最後に、『フラガール』の予告もご覧いただきましたが、20年以上にわたり映画を撮り続ける中で、全ての作品に関わってくださったキャストやスタッフの皆さまに、心から感謝しています。人間として成長させてくれたすべての出会いに、御礼を申し上げたいです」と締めくくった。 李相日監督 大学卒業後、日本映画学校(現:日本映画大学)にて映画を学び、卒業制作作品『青~chong~』が「ぴあフィルムフェスティバル」のアワード2000でグランプリ他4部門を独占受賞し話題となりました。その後も2003年『BORDER LINE』で新藤兼人賞金賞受賞、2006年『フラガール』で第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、2010年『悪人』は第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など主要5部門を受賞、2013年『許されざる者』、2016年『怒り』、2022年『流浪の月』など数多くの賞を受賞。歌舞伎を題材にした2025年の最新作『国宝』は、カンヌの監督週間で世界初上映され、公開前から話題を呼び、邦画の実写で160億円を超す社会現象に。さらに第98回アカデミー賞®国際長編映画賞日本代表に決定しました。 李相日監督の受賞を祝して、映画『国宝』で主演を務めた吉沢亮さんは次のようにコメントした。「映画『国宝』で初めてご一緒させていただきましたが、監督からは“映画に対する覚悟”や“執念”のようなものを強く感じました。大きな愛をもって作品に関わっておられる方で、その思いがキャストやスタッフを引き上げてくださっている。僕自身よりも僕のことを信じてくださっている。その思いに応えたいという気持ちで臨んだ3か月の撮影は、苦しくも幸せな時間でした」と振り返った。 「黒澤明賞」受賞 クロエ・ジャオ監督 『ノマドランド』『ハムネット』 ロエ・ジャオ監督は、喜びの気持ちを込めてスピーチした。「黒澤明監督からはとても大きな影響を受けました。彼は日本と西洋の文化をつなぐ“懸け橋”のような存在だと思います。私はアジア出身の女性監督ですが、黒澤監督を深く尊敬し、その作品から多くの勇気をもらいました。西洋の映画文化にこれほどまで影響を与えた日本の監督はほかにおらず、尊敬の念は尽きません。 そして、日本の皆さまには、私のキャリアの初期から変わらず応援していただき、本当に感謝しています。また、李相日監督、本日お会いできてとても嬉しいです。今年の1月に初めて歌舞伎を観ましたので、『国宝』を拝見できることを今からとても楽しみにしています」と笑顔を見せた。 クロエ・ジャオ監督 3作目の長編映画『ノマドランド』は、2020年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、ゴールデングローブ賞®、英国アカデミー賞(BAFTA)、全米監督協会賞(DGA)、全米製作者組合相(PGA)など数々の賞を獲得、さらにアカデミー賞®では監督賞、主演女優賞、作品賞の3部門を受賞しました。その後、マーベル・スタジオ作品『エターナルズ』を共同脚本・監督。2023年にはプロヂューサーのニック・ゴンダと共に製作会社「Book of Shadows」を設立。日本で2025年に公開予定の、ジェシー・バックリーとポール・メスカルを主演に迎えた最新作『ハムネット』では共同脚本・監督を務め、第50回トロント国際映画祭で観客賞を受賞。第38回東京国際映画祭のクロージング作品として上映されます。 クロエ・ジャオ監督に対しては、「お会いできて光栄です。初めて監督の『ザ・ライダー』を拝見したとき、強い衝撃を受けました。アメリカの荒々しくも美しい大地に生きる人々の、あまりにもリアルな息遣いや生き様を感じ、非常に素晴らしい映画体験となりました。次作の『ハムネット』もそうですが、今後、監督が生み出される物語を、映画に携わる一人の人間として心から楽しみにしています」と敬意を込めて語った。