総観客数100万人目前、ロングラン上演を続ける舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が3年目のシーズンを迎えた。小説の最終巻から19年後の世界を舞台に、父親となった37歳のハリーとその息子アルバスを中心に展開される新たなストーリー。エレガントな佇まいとダイナミックな演技で観客を魅了する、主演(W主演)平方元基さんに舞台終演直後、その魅力に迫る単独インタビューを行った。

舞台を終えたばかりの平方さん

舞台の魅力は「毎回異なる旅を感じられるところ」「一日一本のスルメをかみしめている感じ」その時々の違った色を楽しむ!

ー 7月8日の舞台初日から約2週間が経ちました。この期間中、期待や緊張、充実感、そして達成感など、さまざまな感情を抱かれたことと思います。本日の公演を終えられた今、率直なお気持ちをお聞かせいただけますか?

平方さん:毎回の舞台をやりきることしか頭になくて、文字通り舞台に初めの一歩を踏み出す際に、「今日はどんな旅が始まるんだろう?」という気持ちで臨むんです。ひとたび始まると、3時間40分の間に何が起こるか分からない。基本的に同じ台詞や動作はありますが、心の動き、気温、匂い、スモークの濃淡など、様々なことを感じながら俳優たちはあの板の上に立っているし、お客様も集中して観てくださっているじゃないですか。それを感じると、毎回同じ色の舞台にはならないんですよね。その変化をすごく楽しんでいるので、今日の舞台が終わったという達成感というよりも、「今日はこういう旅だったな、公演だったな」と「一日一本のスルメをかみしめている感じ」ですかね(笑)。

 先に吉沢悠さんに投げかけた同じ質問です。ダブルキャストということで、互いにライバル関係を意識したり、協力したりなどありましたか?

平方さん:違う俳優が同じ役を演じても、それぞれ違ったように映るんです。年齢や生まれ、歩んできた人生が違うから当然でしょう。台詞の温度感も絶対に異なります。でも、それこそが面白さであり、ダブルキャストの意味でもあると思います。実際に僕も吉沢さんのハリー・ポッターを観て、ボロボロ泣くこともあれば、同じように感情が動いて一緒に演じたくなることもあります。お互いのハリーが毎回異なる色合いを見せるところも、ダブルキャストの大きな魅力だと思います。

緊張の先に、学びや素敵な景色があると考えると、ワクワクが大きくなる!

 平方さんの主だった舞台経験数が今回で約40作目と伺っています。ドラマや映画の数よりも圧倒的に多く、舞台への想いやこだわりが強く感じられます。その舞台は基本的にNGも撮り直しもない世界。想像するだけで緊張してきますが、ご自身の「緊張との付き合い方」についてぜひお聞かせください。

平方さん:そもそもなぜ緊張するのだろうと考えた時、まだ起きてもいない未来の不安に対してドキドキしているのだとしたら、あまり意味がないことだなと思います。また、この緊張の前にはあんなに長くきつく大変な稽古の時間を過ごしてきたんだから、この緊張の後には何か学びがあって素敵な景色があるんだろうなと考えると、緊張もするけどそれ以上にワクワクが大きいです。

また、舞台にはNGがないという点についてですが、人間が演じている以上、台詞を間違えるなどのミスは物理的にあり得ます。ただ、それに対して慌てる役者はいないですね。何が起きても何とかすることができる、そんなチームでしたね、今回は特に。

仮に何かが起こっても、今起きていることにどう反応してどのように変化させて次のシーンに繋げ展開させていくか、僕たちが稽古場で積み重ねてきたことが生きてくるところだと思います。

 ハリー・ポッターを演じることで、ご自身が感じることができた心の内をお聞かせください。

平方さん:今回の役はオーディションでしたが、受かりたいという気持ち以上に、今まで出会ったことのない海外の演出家に自分の演技を見てもらえることが正直とても楽しかったんです。そして、「あっ、芝居することが好きなんじゃん!」と再確認できた、格別な時間でしたね。

また、この作品に参加できることは、今までの自分に生きてきたご褒美だと感じるほどでした。だからこそ、自分を認めてあげたいと思えましたし、「今まで歩んできた人生は間違いではなかったよ」と自分で自分に初めて言えるような気がしました。これまで自分を褒めることはほとんどなかったけれど、今回は素直にそんな気持ちになれました。

そして、毎日を必死に生きること、それが自分にとって何よりの挑戦です。こんなに必死に毎日を生きていることは今まであったかな?と思えるほど、今がとても楽しいです。

世界共通の台詞やフォーマットの可能性を感じる作品

 日本で数多くの演劇やミュージカルに出演されてきました平方さんですが、今回の作品は世界中で様々な国の役者が演じているハリー・ポッターを題材としたものです。将来的に海外での舞台出演についてどのようなお考えをお持ちですか?

平方さん:今回の作品は世界中で展開されているものなので、まさに今、世界標準の仕事をさせていただいていることがどれだけありがたいことなのか、日本にいながらにして世界を感じられるこの場所にいられることは幸せなことだと思います。舞台の機構(舞台演出効果用の様々な機器)が統一されているということは、ニューヨークでもロンドンでも、どの劇場でも私たちが演じることが可能ですし、逆に海外の役者が日本で演じることもできます。シャッフルも可能です。この経験を通じて、『世界が一つになった』という気持ちになりました。また、世界共通の台詞やフォーマットの可能性を感じ、ワクワクさせてもらえるお仕事に参加させていただいていると感じています。

 この舞台には、様々な分野から演者が集結して作品を作り上げておられますが、それだからこその魅力はありますか?

平方さん:はい。今回の作品には、テレビや映画、タレントなど、様々な分野からの方々が集まってハリー・ポッターを作り上げています。これは世界的にも同じようです。全員が舞台出身の役者ではないからこそ生まれる化学反応があり、一筋縄ではいかないところが魅力です。それが人間の世界、そして魔法使いの世界も同じだと感じながら演じています。

役者として、人として、平方さんの今後の展望

 現在30代ですが、これから年齢を重ねるにつれ、舞台や映像で様々な役を求められることになると思います。ズバリ、今後挑戦してみたい役は何ですか?

平方さん:「俳優だけがすべてではないと思っているんですよ。人生ですからね。極端な話、他に面白いことがあったら、そこに飛び込んでいくことはぜんぜんアリだと思っています。それが自分の強みなのかもしれません。」

― 実際に何か考えていることはあるのですか?

平方さん:いや、今はこの仕事が最高に楽しいので、俳優業しか見えていません。ただ、それを上回る何かが現れたなら、その時はどうなるか分かりませんね。俳優は素晴らしい仕事ですが、自分の人生は一回きりです。だから、面白いと感じることは全部やってみたいんです。自分に正直に、自分の可能性を感じていたいと思っています。

― 仕事関係なくやってみたいなと思うことはありますか?

平方さん:僕は旅行が好きで、地球儀上のすべての国に自分の足跡をつけてみたいという気持ちがあります。とにかく見たことのない景色を見てみたいんです。この一生では無理かもしれないけれど、写真で見る景色と自分が実際に見た景色は違いますよね。自分の眼球で全部を見たいんです!少しでも休みがあったら海外含めて旅に出るのですが、明日の宿も決めずに飛んで行き、気づけば鍵がかからない安宿に宿泊することになって、どうしようと思うこともありますが、そういう経験も含めて楽しいんです。

ハリー・ポッター役にダブルキャスト(平方元基/吉沢悠)を迎える舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアター(東京都港区赤坂5丁目3-2 赤坂サカス内)にて上演。当日のチケット購入・キャストスケジュールはコチラから

ハリー・ポッター役/ 平方元基 HIRAKATA Genki

〈プロフィール〉

1985年12月1日生まれ。福岡県出身。2008年俳優デビュー。11年『ロミオ&ジュリエット』のティボルト役でミュージカルデビュー。以降、グランドミュージカルを中心に活躍の場を広げている。主な出演作に、舞台:『生きる』、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』、『マドモアゼル・モーツァルト』、『王家の紋章』、『メリリー・ウィー・ロール・アロング』、『ローマの休日』、『サンセット大通り』、『エリザベート』、『マイ・フェア・レディ』、『レディ・ベス』、『ダンス オブ ヴァンパイア』など。21年、ミュージカルアルバム「PROOF」をリリース。

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』公演情報

2022年7月8日(金)に開幕し、総観客数100万人を突破目前の3年目ロングラン上演中の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は、小説「ハリー・ポッター」シリーズの作者であるJ.K.ローリングが、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーンと共に舞台のために書き下ろした「ハリー・ポッター」シリーズ8作目の物語です。小説の最終巻から19年後、父親になった37歳のハリー・ポッターとその息子・アルバスの関係を軸に描かれる新たな冒険物語は、世界中で多くの演劇賞を獲得するなど好評を博しており、国内でも第30回読売演劇大賞の選考委員特別賞、第48回菊田一夫演劇大賞を受賞するなど高い評価を獲得しています。

○日程:ロングラン上演中(2025年2月までのチケット販売中)
○会場:TBS赤坂ACTシアター
○上演時間:約3時間40分、途中休憩あり ○特別協賛:Sky株式会社/With thanks to TOHO
In association with John Gore Organization