2022年7月に開幕し総観客数95万人を突破しロングラン上映を続ける舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。小説最終巻から19年後、父親になった37歳ハリーと息子アルバスを軸に描かれた新たな冒険物語。主役の吉沢悠にハリー・ポッターを演じるにあたっての想い、役者である自分への向き合い方、そして将来絶対にやってみたいこと、単独インタビューから滲み出る愚直なまでの役者吉沢悠を紹介する。

ダブルキャストで挑む37歳のハリー・ポッター

― 数々のドラマや映画でご活躍される吉沢さんですが、世界的な作品であるハリー・ポッターの舞台で、主役のハリーに選ばれた瞬間はどのような気持ちでしたか?

吉沢さん:オーディションを受けること自体多くない中、ハリー・ポッターという海外作品の主役ハリーを演じてみたいという強い気持ちでオーディションに挑みました。選ばれた瞬間は「勝ち取れた!」という喜びの気持ちが率直に湧き上がってきて、歴代ハリーを演じてこられた皆さまと一緒に名を連ねることができるんだ、という光栄な気持ちになりましたね。

― 日本でも熱狂的なファンがいて、それぞれが持つハリー像がある中で、吉沢さんが考えるハリー像とはどのようなものでしょうか?


吉沢さん:漠然としたハリーのイメージは、「幼少期から自分の能力を磨き、闇の存在と戦い続けたヒーロー」。そのハリーが19年経って、一人の男としてどのように変わっているのかを自分なりに想像しながら稽古場に入ったのですが、実際は、稽古に入ってからよりハリーに対する造詣を深めることになりました。

この舞台は、海外の方が演出に携わり、世界中どの舞台であってもハリーに対する核となる部分は同じ演出をしているんですね。そういう意味ではハリーを構成するロジックはしっかりしている。そのうえで、ハリーを演者が理解し考える時間がしっかり与えられ、自分なりの解釈を演技に取り込んでいくんです。

今回はダブルキャストで平方元基さんとハリーを演じるのですが、僕と平方さんは同じ演出を受けているのに、経験や年齢的な違いもあってか、それぞれの受け取り方が異なっていてそこも面白いところです。あれだけのことを成し遂げたヒーローであるハリーが19年後、息子に対する接し方で悩むなど、一人の男として父親として苦悩する姿に、思った以上に人間らしいところを改めて稽古で感じられることができ、ハリーは決してかけ離れた存在ではなく身近な存在なんだな、と思いました。

― 今回のハリー役は、吉沢さんと平方さんお二人が演じられるダブルキャストということですが、互いに意識することや協力し合うことはございますか?


吉沢さん:僕はダブルキャストという経験が初めてなんですが、一つの役に対し、二人で向き合っていくということは、一般的にはライバル関係を感じることもあるのでは?とインタビューで聞かれることもあるのですが、『ライバル関係はゼロ。ここには協力関係しかない』ですね。僕が演じている時に、平方さんが僕の芝居を観て、「悠さんのあそこが良かったですよ!」と率直な意見をくれたり、僕が平方さんの芝居を観て、自分にはこのような動きは出来ていなかったな、あのような動きをやってみても面白いかもと気づきを得られることもあります。お互いが演じるハリーの姿を見合うことで、お互いがハリーの造詣を深められるという時間とお互いの考えを共有、言葉で交換できる関係性がそこにはあるので、本当にありがたい関係だなと思っています。

― そこまで共有し合いながらハリー像を追及していくと、お互いのハリーが気づけば似通ってきてしまうということはないのですか?

吉沢さん:ないですね。これは不思議なんですが、周りの人から「吉沢ハリーと平方ハリーは同じ演出を受けているのに、見え方が全然違うんだね」と言われます。アプローチの仕方だけでなく、描いている人間像も違っているようですね。僕たち二人には分からないのですが、周りから見て異なる個性のハリーが生まれているのであればダブルキャストの意味もあるし、お互いの協力がプラスに働いているんだなと思いますね。

37歳の記憶と人生を変えるようなメンターとの出会い

― 今回のハリー役は37歳という年齢ですが、吉沢さんの37歳を振り返って、記憶に残る思い出はありますか?

吉沢さん:約8年前ということになりますね。その頃に、ショーケン(萩原健一)さんと共演させてもらうことがあったんですよね。年齢的にも40を前にして自分の中でも変化していかなければいけないと感じていた時期でした。一時代を築かれたカリスマ性のある俳優さんを目の前にして、自然と「自分は何も知らないけど、若さとエネルギーでぶつかっていくんだ」という気持ちだった20代前半の気持ちを思い出し、畏怖・恐怖を感じつつも今まで培ってきた自分の姿、自分の俳優としての歴史を思い切り一つのシーンに注ぎ込んだところ、萩原さんから本当に優しい眼差しで受け入れられ、その瞬間に自分も不器用ながら一生懸命培ってきた姿勢をこのように暖かく受け取ってくださって、こういう大人の人との時間はとても大事だなと思った印象的な記憶がありますね。

― まだ名前も知られていない一俳優だった頃から、今日のように「吉沢悠」が認知されるようになるまでには、自分の背中を押してくれたり導いてくれるメンター的な存在の方はおられましたか?

吉沢さん:今までたくさんの方に助けられてきましたが、42歳で自分の人生を変えるような人との出会いがありました。殺陣を教えてくださっている東郷秀信先生が、自分の人生をガラッと変えてくださったメンター的存在です。芸能界に入り約25年経ちますが、先生とは「芝居がまったくなっていない」というご指摘からのスタートでした。

そもそも自分は、殺陣を学びに入塾し、技術を学ぶつもりだったのですが、この塾(斬心塾)は、技術もさることながら、人間形成に重きを置かれていて、物事のとらえ方や世の中をどのように見ていくのかなどを深く考えることで、俳優としての核の部分を形成していこうという目的があり、日本や世界で今、起こっていることに対する話やそれらをどのように考えるか、その考えをどのように周りに伝えられるのかなども稽古で求められました。

その奥深さに、どんどんはまっていきました。とはいえ、当初はこの稽古には想像を絶する厳しさがあり、果たして自分に続けられるかなと思うこともありました。ひたすら通い続けたところ、先生の厳しい言葉と稽古がどのような意味を持っているのかを2年程経った頃に理解できるようになりました。

先生の言葉には鋭さが宿り、それは決して感情的に怒るのではなく、先を見据えたうえでの叱咤であり、40を過ぎてもこの環境に居られることは、自分にとっても挑戦ですし、この環境を用意してくださった先生との出会いはかけがえのないものです。

― 具体的にどのような指導が行われるのですか?

吉沢さん:刀を振ることを身につけたいのであれば、やってみなさい、と。ただ、稽古場は単に反復する場所ではなく、自分が積み上げてきたものを次につなげるために来る場所だから「修練の場」である。刀が上手く振れないと思うのであれば、まずは100回振ってみろ、それで上手くいかないなら1,000回振れ。「1,000回振れ=たくさん振れ」という言葉の比喩なのかな?と思われるかもしれませんが違います。言葉通り、1,000回振れなんです。

そこで、1時間以上かけ1,000回の刀振りを数セットに分けてやり遂げたところ、塾の先輩から「吉沢さん、途中で休憩とっていませんか?1,000回やるとは1,000回連続でやるという意味ですよ」と言われたんですね。悔しくて、次の稽古までに1,000回連続で、時間にして40~45分位振り続けたところ、700回目位で軽く意識が飛んだのです。そこからひと踏ん張り、1,000回振り続けた結果、「1,000回振り切った景色が見えた!」と思う瞬間がありました。「とにかくやれ!」の意味がやってみると分かるという一つの大きな学びでした。ちなみに、1,000回振って景色が見えましたと先輩に報告すると、ニヤッと「吉沢さん、10,000回の景色もあるよ」と。

素晴らしい人が書いた本を読んで、「そうなんだ」と感銘を受け、そのまま本を閉じても何も変わらないですよね。読んだら実践しないと自分の身にならないわけですから、まずはそこを愚直に行うということが大切だと思うのです。精神鍛錬と自分の限界の拡張というか、先生はよく「自分で自分の限界を決めるな」と言われます。そもそもやらないと始まらない。そして気づかぬうちに自ら設定している上限は、がむしゃらにやり続けているうちに超えてしまっていたということもあると思います。そのような学びを与えてくれる先生は私にとって大きな存在です。

― 挑戦しようと思っていても、なかなか行動に移せないということもあろうかと思います。そのような状況であることに対し、どのような形で自分を後押しするのが良いでしょうか?

吉沢さん:先生の教えの一つ、『行く末は今の今』という言葉があるんですね。この言葉に集約されるのですが、「今やることで自分の行く末が変わっていく。だからこの一歩を踏み出し続けよう」ということですね。

― 最後に、今後絶対に挑戦してみたいことは?

吉沢さん:『時代劇』ですね!日本を世界に発信する手段として、アニメや神社仏閣など様々なものがある中で、私は俳優として時代劇を通じて日本の文化や美しさを世界に発信していきたいという想いがあります。いつその時が来ても良いように準備し、果敢に挑戦していきたいと思っています。

ハリー役にダブルキャスト(吉沢悠 / 平方元基)に加え、ジニー役に大沢あかねを迎える7月公演の舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はTBS赤坂ACTシアター(東京都港区赤坂5丁目3-2 赤坂サカス内)にて上演。

ハリー・ポッター役/ 吉沢悠 YOSHIZAWA Hisashi

<プロフィール>
1978年8月30日生まれ。東京都出身。1998年ドラマ『青の時代』にて俳優デビュー。以降、テレビ、映画、舞台など幅広く活躍。2002年『ラヴ・レターズ』にて初舞台を踏み、2013年「宝塚BOYS」にて舞台初主演を果たす。主な舞台出演作品に『TAKEFIVE』、『華氏451 度』(主演)、『MONSTERMATES』などがある。近年の主な出演作に、ドラマ『夫婦が壊れるとき』、『週末旅の極意〜夫婦ってそんな簡単 じゃないもの〜』、『泥濘の食卓』などに出演。近年では役者の幅を広げ、人間味あふれる演技で幅広い層から支持されている。

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』公演情報

2022年7月8日(金)に開幕し、総観客数が85万人を突破した2年目ロングラン上演中の舞台『ハリー・ポッ
ターと呪いの子』は、小説「ハリー・ポッター」シリーズの作者であるJ.K.ローリングが、ジョン・ティファニー、ジャック・ソーンと共に舞台のために書き下ろした「ハリー・ポッター」シリーズ8作目の物語です。小説の最終巻から19年後、父親になった37歳のハリー・ポッターとその息子・アルバスの関係を軸に描かれる新たな冒険物語は、世界中で多くの演劇賞を獲得するなど好評を博しており、国内でも第30回読売演劇大賞の選考委員特別賞、第48回菊田一夫演劇大賞を受賞するなど高い評価を獲得しています。

画像提供 丹青社 撮影 奥村浩司

○日程:ロングラン上演中(2025年2月までのチケット先行販売中)
○会場:TBS赤坂ACTシアター
○上演時間:3時間40分 ※2幕、途中休憩あり ○特別協賛:Sky株式会社/With thanks to TOHO
In association with John Gore Organization