You decide. (邦題: 息子のままで、女子になる)ヒロイン 畑島楓(サリー楓)さんにオンラインでBPMのインタビューにお答えいただきました。お自宅に飾られている油絵は、すべて畑島さんの作品!Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバル2020で日本の作品では初の公式招待となる快挙を遂げた、ドキュメンタリー映画 You decide.(邦題: 息子のままで、女子になる)主人公の畑島楓(サリー楓)さんに2020年8 月4日(火)~30日(日)までコロナウイルスの影響でオ ンライン上で上映される作品への想いと、2017年まで男子として生活していた畑島さんのミス・インターナショナル・クイーンコンテストへの挑戦や、現代の社会に対する考え、そしてこれからの夢についてお話を伺いました。

You decide. (邦題: 息子のままで、女子になる)ヒロイン 畑島楓(サリー楓)さんにオンラインでBPMのインタビューにお答えいただきました。お自宅に飾られている油絵は、すべて畑島さんの作品!Photo By Kaede Hatashima (Sari Kaede)

作品You Decide.は、LADFF公式 コチラのサイトからからご覧いただけます!

畑島楓(サリー楓)さんのYou decide.への思い

ドキュメンタリー映画 You decide.(邦題: 息子のままで、女子になる)主人公の 畑島楓(サリー楓 )さん ©2020 ‘You decide.”

BPM西田:この度は、ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバル2020に公式招待をされたとのこと、大変おめでとうございます。こちらのニュースを聞いた時にはどのようなお気持ちでしたか?また、ご家族やご友人など周りの人たちの反応はいかがでしたか?

サリー楓さん:最初に公式招待のニュースを聞いたときは、多くの方々にこの映画を観てもらえることが嬉しくて、言葉が出ませんでした。まずは家族に報告しましたが、私と同じように大変驚いた様子でした。COVID-19の影響で映画館の状況などが不透明でしたので、今年度中には上映されないことを覚悟していました。ですから、いきなり海外の映画祭に出られることになり、とても驚きました。日本のLGBT、特に現代に生きるトランスジェンダーの等身大の姿が伝わるドキュメンタリーになっていますので、このような映画祭に招待していただけて幸栄に思います。

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

BPM西田:今回の映画に出演するきっかけをお聞かせいただけますか?また、このお話を聞いた時にはどう思われましたか?ご家族の反応はいかがでしたか?

サリー楓さん:トランスジェンダーのビューティーコンテスト(Miss International Queen 2019)に出場する機会があり、二年ほど前からウォーキングなどのレッスンを行っていました。夜の世界や芸能関係の方々が多く出場する大会でしたので、私のような現役の大学院生が出場することで、若い方々にトランスジェンダーの新しい一面を知ってもらうきっかけになるのではないかと考えてコンテストに出場していました。

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

BPM西田: 映画に出演するきっかけもコンテストだったのですか?

サリー楓さん:私のコンテストに出場する意図に共感していただいて、エクゼクティブプロデューサーのスティーブンA.ヘインズ氏から「君の映画を撮らないか?」と相談を受けました。自分が映画になるなんてめったにない機会ですので、その場で「Of course!(もちろん!)」と返事しました。とはいえ初めての映画撮影でしたので、不安とか好奇心とか、いろいろな感情がありました。

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BPM西田:実際の撮影はいかがでしたか?

サリー楓さん:当初はビューティーコンテストに挑戦する様子を記録するような撮影がほとんどでした。映画にも登場しますが、コンテスト終了後に審査員のはるな愛さんと泣きながらお話をして、本当に伝えたかったのはステージ上の華やかな姿ではなく、等身大の自分だということに気が付きました。それで、その後は、大学や仕事などの日常生活や、友人や家族などの撮影を継続していきました。どの撮影も、他者の目を通して自分の輪郭が浮かび上がってくるような、新鮮な気持ちでした。

BPM西田:映画の中で、世の中のトランスジェンダーの方々へのステレオタイプについてお話されていましたが、どのようなステレオタイプを多くの人が持っていると思われますか?ご自身のご経験も踏まえ、そのことについてどうお考えですか?

サリー楓さん:マスメディアに依存したステレオタイプを持っている方が多いように感じます。これは、「トランスジェンダーという言葉は知っていても、実際に日常的に接している人は少ない」、といったことが原因だと思います。例えば、地方ではまだまだ未知の存在だったりします。東京のような都市部でも公言せずに生活をされている方が多いので、職場や学級に1~2人いれば多い方なのかなと思います。なので、トランスジェンダーと聞くと異文化に接したような硬直した態度を取られたり、または感動ポルノのように扱われて過剰に親切にされることもあります。映画を観ていただくと分かりますが、トランスジェンダーといっても他の方々と変わらない日常を過ごしていますし、その性格は十人十色です。男女だとかLGBTだとかいう前に、その人らしく生きているということを知ってもらいたいなと思います。

BPM西田: この映画の見どころと、どのような人たちに特に見てほしいかお聞かせください。

サリー楓さん:幅広く見ていただけると幸いですが、特に、LGBTだとかダイバーシティだとか、そういう抽象的な言葉に飽きてきた方々に見ていただけたらなと思います。ここ数年でLGBTに対する理解が高まった一方で、「LGBT」「ダイバーシティ」が装飾のように氾濫するようになりました。本質的な議論が抜け落ちたまま「私たちはダイバーシティを目指します」といったように、「LGBT」「ダイバーシティ」を装飾のように氾濫しています。そのうち「LGBTフレンドリーなお菓子です」とかまで出てくるんじゃないかと心配になります。映画を観てくださった方々と一緒に、そういった現状を乗り越えていければと思います。

畑島楓(サリー楓)さんの挑戦・夢・目標

ドキュメンタリー映画 You decide.(邦題: 息子のままで、女子になる)主人公の 畑島楓(サリー楓 )さん ©2020 ‘You decide.”

BPM西田:映画の中でミスインターナショナルクイーンに挑戦するシーンが描かれていますが印象的な出来事や経験があればお聞かせください。

サリー楓さん:世界を代表するコンテストということもあり、大変学びの多い機会になりました。また、同年の東京レインボーパレード参加者が過去最多になるなど、LGBTに対する世間の関心が高まっている時期に開催されましたので、時代を象徴したイベントになったと思います。印象的な出来事についてお話しすると、私が出場した2019年の大会HPには「トランスジェンダーのコンテスト」と書いてありましたが、当日の会場には「ニューハーフのコンテスト」と掲げられていました。会場で違和感があったのは私だけじゃないと思いますが、特に誰も指摘することもなく大会が終わりました。「ニューハーフ」と「トランスジェンダー」って何が違うんだろう…そういったような、LGBTブームの影に隠れて議論を避けてきたセンシティブな話題がたくさんあることに気が付きました。コンテスト後の撮影では、そういったことに意識的になりました。

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

BPM西田:現在は建築家、ファッションモデル、そして今回の映画公開に伴って、想像するだけでもご多忙を極めていらっしゃると思いますが、現在は主にどのようなお仕事をされていらっしゃいますか?また、

サリー楓さん:現在は日建設計という世界最大規模の設計事務所で建築家として建物のデザインや、不動産・都市開発のコンサルティングを行っています。建築家の視点を活かして「ABEMA NEWS」というニュース番組のコメンテーターや理化学系の有識者委員会メンバーなどを務めています。

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

BPM西田:今後の夢や目標をお聞かせください。

今の目標はボーダレスな建築(“ボーダレス”なので建築じゃない何か、でもいいですが…)を提案することです。建物は「図書館」「駅」といった様々なカテゴリーに分類されて、基本的にそのカテゴリーの中でデザインが進められます。だから、図書館はどうしても図書館らしくなってしまいます。こういうやり方だと、ボーダレスな建築を作ることはできません。例えば、図書館のような駅があってもいいんじゃないかと思っています。四ツ谷駅の本棚で漫画を借りて、車内で読んで、新宿駅の本棚に返却するとか。そういう、これまで誰も乗り越えられなかったカテゴリーの境界線を乗り越えていくのが私の使命だと思っています。

BPM西田:最後に読者のみなさんに一言メッセージをお願いいたします。

サリー楓さん:いよいよドキュメンタリー映画「You decide.」のロサンゼルス上映が始まります。今年はオンライン上映があるので、日本でも鑑賞できると思います。泣いて、笑って、全力で失敗して、それでもみんなに助けられて…、一時間半の映像で描かれた等身大の私が誰かの役に立ちますように。

エクゼクティブプロデューサースティーブンA.ヘインズ氏より 

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

「スティーブン!いったい何が起きたと思う?」と監督の杉岡太樹さんからの興奮した電話口からの声を今でも覚えています。そして「“You decide”がLos Angeles Diversity Film Festival 2020 にノミネートされた!」と聞かされた時は、耳を疑うほどの驚きでした。本当に感動です!振り返ると、畑島楓(サリー楓)さんとの出会いは、メイクアップアーティストのKODOさんが、2018ミスインターナショナルクイーンのファイナリストだった楓さんを私が主催するウォーキングレッスンに薦めてくれたのがきっかけ。

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

今でも忘れません。レッスン初日はものすごい台風。彼女は30分遅れで何とかスタジオに辿り着くことができたのですが、彼女が現れた瞬間に、どういうわけか「彼女のドキュメント映画を撮りたい!」と閃めき彼女に「あなたのドキュメンタリー映画を撮らない?」と尋ねたところ、即答の「YES!」回答。間髪入れずに監督候補として頭に浮かんだ杉岡太樹さんに話を持っていったところ、最初の返事は手放しでポジティブなものとはいえませんでした。理由はLGBTQに関する知識が十分ではなく間違った伝え方をしてしまうのではないかとの懸念があったから。しかし、そんな心配をよそに、この映画化の話は着々と進んでいったのです。

Photo By Kaede Hatashima(Sari Kaede)

当初、この映画はスポンサーからの協力を得る予定でしたが、自分たちの想いを忠実に表現するドキュメンタリーにすると決め、企画やキャスティング、そして予算をも自分たちで手当てして作り上げた心のこもった作品です。

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主人公の楓の印象は、「素直で正直。心も美しい。」この映画を撮影するなかで、楓はティーンエイジャーから大人の女性に変化したと私は感じます。実は映画のタイトル「You decide」は、何気ないこんな会話のやり取りから生まれたのです。「あなたは、自分のことを美しいと思う?」と。彼女から「You decide(あなたが決めること)」と返され、美しさへの価値観を考えさせられるこのフレーズを映画のタイトルに決めました。また、彼女の父親に撮影現場で2度程お会いする機会がありましたが、本当に素晴らしい人格者で、楓の考えをしっかりと受け止め尊重していた姿にとても感銘をうけました。今の日本の社会ではなかなか簡単なことではないと思います。楓の夢は、女性になることと建築家になることでした。その夢を彼女はふたつとも叶えました。

最後に、この映画を多くの人に見ていただきたいです。「オープンマインドで幸せを感じたい。願いを叶えたい。そして人を尊重できる。そんな皆さまに見てほしいです。ありがとうございます。

スティーブンA.ヘインズ出演ワンランク上を目指す女性に向けたイベントBPM取材記事~Ladies in RED~

畑島楓(サリー楓)さんの作品も紹介されているサリー楓オフィシャルサイトはコチラ

サリー楓オフィシャルサイトより ©サリー楓