「Rights for All (すべての人に権利を)」をスローガンに掲げ、約60名の参加者が人権問題について考えた。

世界5大ミスコンのナショナルディレクターを務めるダンサーでマルチタレントのアメリカ人 Steven A. Haynes(スティーブン・A・ヘインズ) 氏(左)と俳優でモデルのガーナ出身 Summy Pop(サミ・ポップ)氏 (右) 撮影:BPM 西田

米国人警官による黒人容疑者に対するチョークホールド(頸椎の圧迫)

2014年7月17日、「I can’t breathe!(息ができない!)」と何度も訴え苦しみながらこの世を去った男性がニューヨークにいた。 6人の子を持つ父親エリック・ガーナーさん、当時43歳だ。両手を挙げ無抵抗のエリックさんを無残にも11分もの間、複数の白人警官が押さえこみ禁止されている「チョークホールド(頸椎の圧迫)」を行った。エリックさんは搬送先の病院で死亡が確認されたが、警察官は不起訴となった。その後6年の間に、どれだけの黒人容疑者が警察によって暴言を浴びせられ、暴行を受け、そして尊い命が奪われたのであろうか?

黒人容疑者は白人容疑者の5倍も警官に命を奪われており、死者数は104名にものぼる。 © Mapping Police Violence.org

Mapping Police Violence.org によると、2015年における警察官の不当行為により命を奪われた黒人容疑者数は104人で、実に白人容疑者の5倍。その中には女性や未成年も含まれている。このような状況下、2020年5月25日にミネアポリス州で起きたジョージ・フロイドさん(当時46歳)の事件は、エリック・ガーナーさんの事件を彷彿させるものとなった。同月、ランニング中に白人親子に殺害されたアハマード・アーベリーさんに続きこの事件がトリガーとなり全米はもとより世界中で抗議デモや集会が開かれるようになった。日本でも 6月14日(日)の大規模デモを含め各地で人種問題について声を上げる人々が増えている。

日本で活躍するスティーブン・A・ヘインズと仲間が立ち上がり、愛溢れる新しい世界に向けた座談会を開催した!

代々木公園に集合したスティーブンAヘインズとサミポップの仲間たち Photo By Steven A. Haynes

SNSを通じて海外のニュースをリアルタイムで見ることが出来る様になり、ジョージ・フロイドさんの悲報を日本でも多くの人が知ることとなった。そんな中、6月7日(日)、日本で活躍する世界5大ミスコンのナショナルディレクターを務めるダンサーでマルチタレントのアメリカ人 Steven A. Haynes(スティーブン・A・ヘインズ) 氏と俳優でモデルのガーナ出身 Summy Pop(サミ・ポップ)氏が立ち上がった。「Rights for All (すべての人に権利を)」をスローガンに掲げた集会を 新宿代々木公園で開催。彼らに賛同する約60名が参加し今回の問題について話し合った。抗議デモの形はとらず「愛溢れる新しい世界を目指す」ことをテーマとした平和的な集会となった。

俳優でモデルのガーナ出身 Summy Pop(サミ・ポップ)氏 (左)、スティーブン氏の甥(中央)、世界5大ミスコンのナショナルディレクターを務めるダンサーでマルチタレントのアメリカ人 Steven A. Haynes(スティーブン・A・ヘインズ) 氏(右)と撮影:BPM 西田

ジョージ・フロイドさんが首を絞められていた8分46秒の間 ひざまずき黙祷を捧げる

8分46秒もの間、首を絞め続けられ亡くなったジョージ・フロイドさんに対し同じ時間、参加者全員でひざまずき黙祷を捧げた。ヘインズ氏によるフロイドさんが苦しみの中で発した言葉「息ができない」「助けてください」「お母さん」という声を聞きながら。 8分46秒 の黙祷の後、我々が生きていたということを考えてほしいとヘインズ氏は加えた。

ジョージ・フロイドさんが首を絞められていた8分46秒の間ひざまずき黙祷を捧げた 撮影:BPM 西田

集会に集まった多国籍の参加者が人権問題について意見を述べた

アメリカ人、ガーナ人、インド人、アフリカ出身の夫を持つ日本人、実際に海外で差別を受けた経験のある日本人、友人が日本で差別を受けた日本人など、それぞれの体験や思いを伝えた。

アメリカ人のキャレンさんは、24歳で 日本の漫画に魅了され来日。もしも日本に来ていなかったら自分の人生はどうなっていたのかと語った。撮影:BPM 西田

アメリカ人のキャレンさんは、日本の漫画に魅了され母国の大学を卒業したのち来日。アメリカ北東部ペンシルバニア州出身の彼女は人生を振り返り、もしもあのままアメリカで生活を続けていたら私はどうなっていたのかと語った。当時は黒人差別による危機感を男性ほどは持っていなかったと話した。しかしながら昨今の黒人女性に対しての事件を通して彼女の考えは大きく変わったとも話した。

アメリカ中西部ウィスコンシン州出身のバイリンガルMCでタレントのグレッグ・アーウィンさんは、子供の頃から父に聞かされていた言葉を紹介した。撮影:BPM西田

アメリカ中西部ウィスコンシン州出身のバイリンガルMCでタレントのグレッグ・アーウィンさんは、父親から「どんな子と付き合っても良いが、黒人の女だけは連れてくるな」という差別的な発言を子供の頃から聞かされてきた。肌の色や性の違いに対して差別をする人がどこにでもいるし、それは人間のもつ嫌な一面でもあると彼は考える。

ある黒人少年がお母さんに教わった12のルールについて語るミスインターナショナル2012グランプリで活動家の吉松育美さん。撮影:BPM西田

アメリカで女優として活動するミスインターナショナル2012グランプリで活動家の吉松育美さんは、 ある黒人少年がお母さんに教わった12のルールについて語った。そのルールとは「ポケットに手を入れて歩いてはいけない」「白人女性を凝視してはいけない」「マスクやヘアバンドを着用して歩いてはいけない」「警察が近づいてきたらすぐに両手を挙げ、身分証明証を求められたら見せること」「警察官と話すときには、Yes Sir などと服従の意味を込めた言葉使いで話す」などを例に挙げ、アメリカにおける黒人差別の実態を紹介した。吉松さんはアメリカに身を置く日本人として強いメッセージを伝えた。

また、アフリカ出身の夫を持つ日本人女性は、日本でも黒人に対して差別があると語った。黒人の友人と町を歩くとジロジロ見られたり、黒人の友人たちと楽しくおしゃべりをしているだけなのに喧嘩をしているのではないかと間違われた経験も幾度となくあったそう。また、地元の運動施設を予約する際、黒人だけで申込もうとした際、受け付けてもらえないというあからさまな差別があったとのこと。他にも、国内外で実際に自身や知人が経験した差別に対しての意見、そして発言することによって起こるバッシングに対する対処法に至るまで、様々な角度から意見が述べられた。

さいごに、BPM編集長より

BPM編集長西田がおすすめしたい4作品:ルーツ、マルコムX、グローリー・明日への行進、評決のとき

私が初めて奴隷貿易やアフリカ系アメリカ人の歴史を学ぶことになったのは、アメリカ南西部に留学をした15歳の時でした。アメリカの華やかなエンターテイメントに夢と憧れを抱き渡米した私は、2,000人以上の在校生の中でアジア人は私と中国人の生徒2名だけという環境で初めての海外生活をスタートしました。ヒスパニック系アメリカ人が8割、 非ヒスパニック系白人が1割、 そして私も含めたアジア人、ネイティブインディアンや黒人などマイノリティーが1割という人種構成の学校で、それまで全く意識したことのなかった「肌の色」の違いを考えさせられることになりました。何気ない会話の中で 肌の色について指摘されたり、心無いジョークを言われたり実際に差別を受けたこともあります。人生で初めて肌の色による劣等感を覚えました。

そんな中、留学生の必須教科であったアメリカ史の授業の一環で、アレックス・ヘイリー原作のドラマ「Roots(ルーツ)」に出会いました。日本からアメリカ史の本を取り寄せ、分からない単語は辞書で引きながらなんとか半分くらい理解できました。当時、奴隷貿易のことなど全く知らなかった私は、250年に渡って続いたアメリカの奴隷制度、アフリカ大陸から誘拐され狭い船に詰め込まれアメリカ大陸に連れてこられた1,200万人近くの人々のこと、白人至上主義KKK(クー・クラックス・クラン)の存在、そして 1964年 まで黒人を含む有色人種への差別が合法とされていたということを知ることになりました。またいつも目にしていたインディアンハウスで生活をする先住民であるネイティブアメリカンの存在も気になり、歴史を知って彼らのことがとても不憫に思えたことを今でも覚えています。日本で思い浮かべていたハリウッド映画やドラマで見るキラキラとした憧れの世界と残酷な歴史を含む人種差別問題とのギャップに恐怖を感じました。

これをきっかけに、大学ではアフロアメリカン研究のクラスを取り暇さえあればマルコムXのスピーチをオーディオブックで何度も聞くようになりました。ある日、アフリカ系アメリカ人の講師がクラスでふと発した一言と表情が今でも忘れられません。「日本では黒人がリンチされることもないから住みやすい」。これは南北戦争の時期のことではなく、1990年代の話です。黒人差別は遠い過去のものではなくずっと続いているということを目の当たりにした瞬間でした。 そしてその時から更に20年以上も時間は経っているのです。

日本にも部落問題、在日外国人への差別、アイヌなど少数民族への差別、外国人労働者への差別、人種差別以外にも男女の給与を含む待遇の格差、一人親への差別など日本には多くの差別が存在しています。歴史、格差、区別、略奪、搾取、貧富、優劣、欲望、恐れ、無知…… 差別は様々なきっかけで発生することだと思います。 今回の社会運動により、人種差別問題について多くの人が興味を持ち、考え、声を発し、世界が平和に向かうことを願います。