国民的映画シリーズ『男はつらいよ』のファン感謝祭が8月27日、東京・葛飾で開催された。山田洋次監督、“寅さんファン”の劇団ひとり、三平役の北山雅康が登壇。「令和の寅さんなら何を売る?」との話題では、山田監督が「AIの利用の仕方」と回答。笑いを交えながらAI時代への思いも語った。 1969年8月27日、山田洋次監督、渥美清主演による映画『男はつらいよ』第1作が劇場公開された。以来、車寅次郎こと“寅さん”が日本各地を旅しながら繰り広げる恋や人情を、笑いと涙とともに描き、多くの人々に愛されてきた。シリーズは「一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ」としてギネス世界記録に認定され、総観客動員数は8,000万人を超えるなど、日本を代表する国民的映画シリーズとなった。 2019年には、第1作公開から50周年を迎え、シリーズ第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が公開。それまでの全49作も4Kデジタル修復されるなど、半世紀を経て“寅さん”が再びスクリーンに帰ってきた。そんな『男はつらいよ』の第1作公開日である8月27日、今年も“寅さんファン”への感謝を込めた「『男はつらいよ』ファン感謝祭」が開催された。3回目を迎える今回は、シリーズの生みの親である山田洋次監督をはじめ、熱烈な寅さんファンとして知られる劇団ひとり、三平役でシリーズに出演した北山雅康が登壇した。 会場には全国各地から幅広い世代の“寅さんファン”が集結。山田監督は昨年のイベントを振り返り、「この集まりは独特」と話すと、寅さんを愛する人たちの強い思いに支えられて楽しい時間を過ごせたことに触れ、「本当に皆さん今日よく来てくれました。どうもありがとう」と感謝を伝えた。 熱烈な『男はつらいよ』ファンとして知られる劇団ひとりは、「ずっと寅さん見てるから、なんか僕、寅さんの親戚ぐらいの気持ちなんですよ。たぶんみんなそうだと思うんですよ。だから今日なんかもう親戚の集まりみたい」と表現。さらに、「初対面の人でね、なんかいけ好かないなこの人なんて思っても、『男はつらいよ』好きだって話になると急にいい人に思えてくる」と笑わせ、「何の共通点もない人でも『男はつらいよ』が好きっていうだけで2時間30分平気で喋れる」と、作品が生み出すファン同士の不思議な一体感を語った。 山田監督も、シリーズを作り始めてから長い年月が経ったことに触れ、会場には作品が大ヒットしていた時代にはまだ生まれていなかった世代もいるだろうとしながら、今なお多くのファンが足を運ぶことに「作り手として監督として、とっても幸せだと思いますね」と感慨深げに語った。 トークが大きく盛り上がったのが、会場のファンから「令和の時代に寅さんが生きていたら何を売るのか」という質問を受け、「令和の時代に売るものってなかなかないですね」と考え込んだ山田監督は、「強いて言えば、古本じゃないかな」と回答。さらに、どんな本なのかと話が進むと、「AIの利用の仕方っていう本じゃないかな」と意外な商品を挙げた。 これを受け、劇団ひとりは「時代が変わっても、やっぱ相変わらず、お猿のチンパンジーのおもちゃみたいなのを売ってほしい」と乗っかり、「AI搭載」や「スティーブ・ジョブズが作った」などとうたって売る寅さんを想像し、会場を沸かせた。 山田監督も「寅さんがAIの本を売ってるってことは、AIの中身は全部インチキよ」と応じ、“令和の寅さん”をめぐる軽妙なやり取りに笑いが広がった。 “寅さん×AI”という想像で笑いに包まれた会場だったが、ここから山田監督の言葉は一転。現在急速に発展するAIそのものについて、「大問題じゃないですか」と切り出した。「実を言うと一日に何度も何度もそのことを考えますよね。本当に僕たちは幸せになるんだろうか。僕たちが幸せになるような発明が生まれてるんだろうかっていう問題ね」 山田監督は、父親の若い頃に飛行機が初めて飛び、人々が「ついに人間は空を飛ぶときが来た」と喜んだ時代を回想。さらに北海道の友人から聞いた話として、近くに線路ができて初めて列車が走った際には学校まで休みになり、人々が線路の周りに立って「バンザイ」と列車を迎えたというエピソードを紹介し、かつて科学技術の進歩は、人々にとって「おめでたくて喜ばしくて素晴らしいことだった」 一方、現代のAIについては「素晴らしい発展」と認めながらも、かつての科学技術とは異なる感覚を抱いているという。「なんか非常な不安に包まれてるっていうかね。本当に大丈夫なんだろうか」誰もが手を挙げて祝福し、「すごいいい時代が来る」と思っているわけではない。それでもAIをめぐる状況は急速に進んでいく。その先に何が待っているのかについて、山田監督は「これから先どうなるんだろうって誰もうまくわからない。AIにしかわからないみたいな。そういう不安の中に僕もいる一人ですね」と率直な思いを明かした。 当日はお楽しみ抽選会も行われ、第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』の劇中に登場する“大輪のぼたんの絵”と同じ一点ものが、抽選で選ばれたファン一人に贈られた。同作では、太地喜和子演じる芸者・ぼたんに日本画家・池ノ内青観から絵が贈られる印象的な場面が登場する。貴重な一点ものを前に劇団ひとりは大興奮。当選者に「売っちゃダメですよ!ぼたんも売らないって決めたんですから!」と劇中のエピソードにちなんで念押しし、最後まで筋金入りの“寅さんファン”ぶりで会場を沸かせた。 終盤では山田監督は以前の集まりでプレゼントを渡した少女と会場で再会したことにも触れ、「また来年会いましょうね」と優しく呼びかけた。そして観客に「またこういう催しをやることになれば、ぜひ皆さんまた来てくださいね。またお会いしましょう。どうもありがとう」と感謝。世代を超えて『男はつらいよ』を愛するファンに囲まれながら、再会を約束した。 この日は、第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』も上映され、寅さんを愛するファンとともに作品の魅力をあらためて分かち合う一夜となった。 『男はつらいよ』ファン感謝祭 in 葛飾!山田洋次監督が語る“寅さんナイト”と木村拓哉『TOKYOタクシー』(11月21日公開)秘話