3月30日(月)、帝国ホテル東京にて「第47回松尾芸能賞」贈呈式が開催された。日本の伝統芸能の振興と発展を目的に、優れた芸能人や制作者を表彰する本賞は今年で47回目を迎える。小池修一郎、戸田恵子、加藤登紀子らが受賞し、加藤は「百万本のバラ」を圧巻の生歌唱で披露し会場を魅了した。

小池修一郎(こいけ しゅういちろう)大 賞 / 演 劇

日本のミュージカル界を牽引してきた演出家である。舞台、映画、文字からサブカルチャーに通じ、新鮮な素材をミュージカルに仕立てるセンスが光る、大きな功績は、『エリザベート」を巧みな潤色によって日本での大ヒット作へと導いたことだ、宝塚は勿論、東宝でも上演を重ね、早くも30 年を迎えた。原作舞台を洗い直し、大胆に潤色・演出する手腕は折り紙付き。ミュージカルファンの信頼も厚い演出家である。

受賞スピーチでは、「第一回が杉良太郎さん、前回が松平健さん。私はどちらかといえば客席の後ろにいるという感覚が強いので、杉さん、松平さんの並びでなぜ私がという思いもあり驚きましたが、あらためて感謝しています」と率直な心境を語った。さらに、これまで仕事を与えてくれた人々や共に作品を作ってきた関係者への感謝を述べ、「宝塚歌劇団に入って50年、演出家として40年。長いようであっという間だった」と回顧。ミュージカルという分野の広がりにも触れつつ、代表作『モーツァルト!』の言葉を引用し、「これからも日本のエンターテインメントの一助になりたい」と意気込みを語った。

戸田恵子(とだ けいこ)優秀賞 / 演 劇

劇団薔薇座に所属し、ミュージカルに出演する僕ら、声優としての活躍も始める。以来、洋画の吹替やアニメーションの声優として確固たる地位を築く。女優としては映画やTVドラマは勿論、舞台でも印象的な役を見せてきた。ことに三谷幸喜作品に多く出演、『虹のかけら〜もうひとりのジュディ』は、2024年にニューヨーク公演も果たした。伸びやかな声と演技センスで、ますますの活躍を期待したい。

受賞スピーチでは、「11歳で地元・名古屋の『中学生日記』に出演し、15歳でスカウトされ演歌歌手として10代を過ごしましたが、なかなか芽が出ませんでした」と振り返り、「その後、野沢那智さんに導かれ舞台女優として再出発し、生活に苦労する中で声優の道も拓いていただきました」と語った。さらに、野沢の導きにより声優としての道を歩み、やなせたかし氏との出会いを経て、「40代でテレビの世界に入り、来年古希を迎えますが、約30年、一本の川を泳ぎ続けてきました」と述べ、「無様な時もありましたが、一度も岸に上がることなく歩み続けてこられた。これからも泳ぎ続けたい」と力強く語った。

また、囲み取材では、受賞の喜びを両親に伝えたいと語った。さらに、過去に受賞経験のある三谷幸喜へ報告するか問われると、「三谷さんにですか?そんなには思っていないですね」と笑いを誘い、「三谷さんが受賞されていることも今日知ったくらいなので、『数年前に受賞されたこと、おめでとうございます』と今伝えたい」とユーモアたっぷりにコメント。その後、「もちろん喜びを真っ先に伝えたいお一人です」とフォローし、会場を和ませた。

曽我廼家寛太郎(そがのや かんたろう)優秀賞 / 演 劇

藤山寛美から濃密な指導を受け、松竹新喜劇の看板役者となり重要な役を務めている。近年は外部出演も多く、五木ひろしなどの座長公演に参加。一方、自主公演「曽我廼家寛太郎一座」を立ち上げ、上方喜劇を今日に継承している。2025年は前進座「裏長屋騒動記」に客演。満場の爆笑を誘った。活躍の基盤には伝統的な上方文化の蓄積があり、その活動は上方文化の発展に寄与するものである。

受賞スピーチでは、「松竹新喜劇には一通行人からスタートしました」と振り返り、「師匠の藤山寛美からは『芝居の勉強は人の芝居を観ることだ』と教わりました」と語った。今回の受賞については「多くの後輩に舞台袖から芝居を見てもらえる役者になりなさいという意味だと受け止めている」とし、「これからも研鑽を重ねていきたい」と決意を表明。さらに、支えてくれた人々や妻・娘への感謝を述べ、「喜劇の道で全国に笑いを届けていけますように」と力強く語った。

西川扇藏(にしかわ せんぞう)優秀賞 / 舞 踊

流派に伝わる古典舞踊作品については定評がある。また、同世代の舞踊家との「五耀會」での活動も貴重な実績である。新作舞踊についても、新たで独自の着想に優れた点が多い。宝塚歌劇団やOSKの振付、映画やテレビでの所作指導など、日本舞踊の世界を広めてきた実績がある、十一世西川扇藏の名跡を襲名後は更に、芸格も大きさ、豊かさを増し、箕乃助時代からの蓄積が年輪を感じさせ、艶やかな芸の気配を実感させる。

受賞スピーチでは、「一昨年、父の跡を継ぎ、十一世西川扇藏を襲名しました。父が八十数年名乗っていた名を、65歳にして継ぐこととなり、改めて西川流の重みを感じています」と語り、「二十数年前に新人賞を頂戴して以来、再びこの場に立てたことに身の引き締まる思いです。これからも一層精進してまいります」と決意を述べた。

藤舎貴生(とうしゃ きしょう)優秀賞 / 邦 楽

横笛奏者として高い評価を得ながら、歌舞伎・日本舞踊・NHKテレビ・ラジオ・演奏会など活動を続けてきた。また、作曲家・音楽プロデューサ一としての活動は古典にとどまらず、その才能を遺憾なく発揮している。口感体による三味線音楽「幸(さき)魂(みたま)奇(くし)魂(みたま)」では、新鮮な挑戦を見せた。また、邦楽の発展のため、子供への指導・教育にも貢献している。その幅広い活動は邦楽界において唯一無二の存在である。

受賞スピーチでは、「家系や環境の影響か、幼少の頃から歌舞伎や日本舞踊が大好きでしたが、日本舞踊だけは習うことができませんでした」と振り返りつつ、「他の楽器はほぼ習得し、“好き”を支えに今日を迎えることができた」と語った。さらに「師匠や多くの仲間に支えられての受賞」と感謝を述べ、「これを励みに、自国の文化の音色を繁栄できるよう、自分が何をすべきか考え、悩みながらも精進していきたい」と決意を明かした。

中村鷹之資(なかむら たかのすけ)新人賞 / 演 劇

五代目中村富十郎の長男として生まれ、父のもと歌舞伎の基礎を学ぶ。2013年から勉強会「翔之會」を開催し「供奴」「うかれ坊主」など父の当たり役に次々と挑戦した。2017年は「越後獅子」を踊ったのをはじめ「三社祭」の悪玉などで成長ぶりを見せた、昨年は新春浅草歌舞伎で「絵本太功記」の十次郎、「棒しばり」の次郎冠者を演じ、「翔之會」では「奴道成寺」「弥生の花浅草祭」を通り優れた成果を挙げた。

受賞スピーチでは、「11歳で父を亡くしましたが、この世界でこのような賞をいただけたのは、皆さまのおかげです」と感謝を述べ、「これまでの歩みが正しかったのか自問自答することもあったが、この賞を励みに芸道に精進していきたい」と決意を語った。さらに「来月はヨーロッパ(イタリア・フランス・ドイツ)公演に参加します。今後とも挑戦していきますので、ご指導よろしくお願いいたします」と今後への意気込みを明かした。

加藤登紀子(かとう ときこ)特別賞 / 歌 謡

「知床旅情」などの大ヒットによって、日本初の女性シンガーソングライターとして名声を博した。自身が訳詞、歌唱した「百万本のバラ」はミリオンセラーを記録。一方で楽曲提供、俳優など多彩な才能を発揮している。ステージ活動では、「ほろ酔いコンサート」を50年以上続け、昨年8 月、ハルピンでの同市の交響楽団とのコンサートでは日中両国の観客から賞賛を受けた。60年に及ぶ活動は日本の音楽文化向上に功績を残した。

受賞スピーチでは、「色々な伝統芸能で築いてこられた皆さんの中で、権威というものと少し距離のあるポップスの世界で歌ってきましたが、今日の受賞は、ここまで歌い続けて良かったという気持ちでいっぱいです」と率直な思いを語った。さらに「昨年は生まれ故郷の中国・ハルビンでコンサートができ、多くの方に力添えをいただいた」と振り返り、「戦争の中にいたこともあり、自分のアイデンティティーは自分で掴んでいかなくてはいけない運命だった。歌はその意味で、最も力を与えてくれるもの」と明かした。最後に「これからも歌える力がある限り、歌っていきたい」と力強く意気込みを語った。

授賞式で「百万本のバラ」を歌唱披露した加藤登紀子

谷口裕和(たにぐち ひろかず)特別賞 / 舞 踊

「素踊り」で、卓抜した才能を見せる谷口裕和。古典を基本にしながらも、新鮮な振り付けで踊る公演は人気を呼んでいる。十世西川扇藏や梅津貴昶の下で学んだ体験から、独立して22年、ようやく花を開き、実を結び始めている。昨年来、話題になった映画「国宝」では主演俳優の舞踊指導を担当し、その成果が作品の質を高めたと評価されている。日本舞踊の新たな可能性を覚えさせる独自の活動は、今後大いに期待される。

受賞スピーチでは、「本当に身に余る幸せです」と感謝を述べ、「料亭に生まれ育ち、幼い頃から芸者の踊りや三味線に触れる中で、踊りが一番好きになった」と振り返った。その思いを一筋に貫いてこられたことへの喜びを語るとともに、「どこにも属さず歩んできたが、多くの先生方との出会いに恵まれ、『国宝』にも巡り合えた。社会現象のように作品が届いたことにほっとしている」と心境を明かし、最後に支えてくれた人々への感謝を述べた。