映画『オブセッション 災愛』の大ヒット記念トークショーが8月11日、TOHOシネマズ日比谷で開催され、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が登壇。低予算から世界的ヒットを生んだ本作について、自身の経験も交えながら、演出やストーリーテリング、映画館で味わう体験価値など、その魅力を映画監督ならではの視点で語った。

すでに一度本作を鑑賞していたという上田慎一郎監督。この日は観客とともに二度目の鑑賞を終え、「一度目の時は、隣の若いお姉さんがずっと指の間から映画を見ていて、まさに『もう見たくないけど、見たい…』という感じで、その気持ちがすごくわかりました」と振り返る。二度目は展開を知った上で客観的に観られたとしつつ、「考えうる最悪なことばかり起こる映画でした(笑)。『最悪、最悪』と思いながら見ていました」と語り、会場を笑わせた。

主人公・ベアについては、「『もっと動けよ!』と思うところがたくさんありました(笑)」とツッコミ。「あまり見ないタイプの主人公。動きが脇役ムーブというか、次に死ぬヤツのムーブなんですよね(笑)」としながらも、「実際にこういうことが起きたら頭が真っ白になって、思考が停止するのかもしれない」と分析した。

「低予算で大ヒットしたホラー」という触れ込みに惹かれて最初に劇場を訪れたという上田監督。当初は『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』のような斬新な撮影方法や仕掛けを想像していたというが、「見てみると思いのほかしっかりとした映画で、低予算であることも感じさせない」と印象を語った。さらに、「よくありそうなプロットで、下手な監督が撮ったらチープなものになってしまいそうなものを、ここまで面白くする。“演出の映画”なんだなと驚かされました」と、カリー・バーカー監督の演出力を高く評価した。

中でも注目したのが、作品全体を覆う“暗さ”。「全編の8~9割が夜で、ニッキーの表情が読み取れないくらい暗い。でも、あれは映画の作り手としては根性がいるんです」と指摘。「『もうちょっと表情を見せたほうが…』となるところを、あれだけ真っ暗に落としている。それはすごく勇気がある」と監督の姿勢を称えた。また、一見すると演出意図が読み取れないシーンが随所に差し込まれている点にも着目。「どういう理屈でやっているのか全く分からないけど、わからないからこそ面白い」と語り、「作り手としては、どうしても意味や“理”を考えてしまうもの。この映画は、一見意味が読み取れない行動がフラットに差し込まれているのが怖いんだと思います」と分析。一方で、「愛が行き過ぎてサイコな感じになってしまう」という現実にも起こり得る要素があることで、「笑っているだけでは済まされない鑑賞感がある」と、その絶妙なバランスを評価した。

上田監督自身も、若い頃、自身に強い好意を寄せていた女性がバレンタインデーにアルバイト先のレストランを訪れ、オレンジジュースを10杯おかわりしていったという“ニッキー体験”を披露。MCのあんこから「『オブセッション』のスピンオフの話ですか!?」とツッコミが入り、会場を沸かせた。上田監督は「誰しも身に覚えのあることだと思いますし、ちょっと情緒不安定なこういうカップルは普通にいると思います」とした上で、「“情緒不安定”というものだけで、ホラーになるんだ!と思いましたし、そこに“社会”を感じました」と、作品が持つリアリティにも言及した。さらに、ハリウッドの基準では低予算で制作された本作について、「お金をかけてスケールがデカいものを描かなくても、演出とストーリーテリングでこれだけ見せられるし、映画体験をつくれる」と評価。「お金をかけてCGを駆使して大迫力の映像をつくらなくても、固まった笑顔を見せるだけで、これだけ魅せられる」と語った。

自身も『カメラを止めるな!』で限られた予算とリソースの中、冒頭37分に及ぶワンカット撮影に挑んだ経験を振り返り、「ギリギリで撮れたという熱量が映像にも映っていると思う」と上田監督。その上で本作について、「人間の顔一発は、どんな大スペクタクルよりも強い!というのを、怖がりながら、笑いながら、ちょっと感動もしながら見ていました。圧巻でした」と賛辞を贈った。最後には、YouTuber出身で26歳のカリー・バーカー監督について、効果音の使い方や場面ごとのトーンの切り替えにYouTubeらしさを感じる一方、「たくさん映画を見ているのを感じさせられた」と評価。

本作のヒットについて、「一度見た人が、誰かを映画館に連れて行きたくなるんだと思います」と分析し、「これだけ配信があって、スマホで手軽に映画を見られる時代に、こんなに暗闇で映える、一緒に体験できるというのは映画館でしかできないこと」と映画館ならではの魅力を強調。「映画館の体験価値というのをYouTuber出身の監督が作り出してくれていることに希望を感じます。僕もまだまだいろんな挑戦をしていきたい」と締めくくり、会場から温かい拍手が送られた。