11月7日(金)、創業117周年を迎える貝印(代表取締役社長兼COO:遠藤浩彰)が「いい刃の日」PRイベントを開催し、2026年に発売予定の新商品2点を発表した。イベントにはゲストとして俳優の小雪が和装で登場。トークセッションでは、日々の料理道具との向き合い方、子どもたちとの関わり方、そしてこれからの生き方について、静かに、丁寧に言葉を紡いだ。 遠藤浩彰(えんどう・ひろあき)貝印株式会社およびカイインダストリーズ株式会社代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)2008年に慶應義塾大学経済学部を卒業後入社。生産部門のカイインダストリーズ株式会社や海外関連会社KAI U.S.A. LTD.への出向を経て14年帰任。国内営業本部と経営管理本部では副本部長、グループの核となる経営戦略本部、マーケティング本部、研究開発本部の3部門にて本部長に歴任。取締役副社長就任を経て、2021年5月25日に貝印株式会社およびカイインダストリーズ株式会社代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)に就任。 創業117年のグローバル刃物メーカーである貝印株式会社は、2024年度のグループ連結売上が562億円。業績は堅調に推移し、海外売上比率は50%を超える。まさに世界を舞台に業績とブランド価値を高め続けている企業だ。 「世界中のお客様に、より良い製品を届けていく」その思いの源流にあるのは、KAIグループ発祥の地・岐阜県関市で脈々と受け継がれてきた“野鍛冶”の技と精神にある。その職人技術と魂を製品に宿し、日本のみならず世界で愛される製品へと昇華させ続けている。これは単にグローバル展開の成功事例にとどまらない。地方産業を未来へとつなぎ、技術を手渡していく、その姿は日本の製造業の理想的なあり方を体現している。 2026年に導入予定の新商品『なでそり』と『THOLL』について説明する遠藤社長 KAIグループは、増加するインバウンド需要への対応とブランド認知向上を目的に、1年前に新設した成田空港直営店に続き、2026年に京都で初の路面直営店をオープンすることを発表。 続いて、2026年に導入予定の新商品『なでそり』と『THOLL(ソル)』について、遠藤社長自らコンセプトや開発背景を説明した。 『なでそり』(2026年発売予定) 「なでそり」の説明をする遠藤社長 ©貝印株式会社 世界初の“なでるようにそる”カミソリ 「なでそり」。SNSの影響などにより剃毛の低年齢化が進む中、子どもが大人用カミソリを使うことで起こる怪我やトラブルを防ぐために開発された。刃には2種類の樹脂ガードを搭載し、刃が直接肌に触れにくい安心設計がなされ、どの方向に動かしてもそりやすく、なでるだけで毛を整えられる。さらに、石鹸やフォームを使わず、”肌を濡らさずに使える”ため、いつでも気になったときに処理ができるのが特徴。 『THOLL(ソル)』(2026年発売予定) 「THOLL」の説明をする遠藤社長 ©貝印株式会社 世界初の替刃式5枚刃フルメタルレザー 「THOLL(ソル)」。ヘッドパーツは磁石で装着でき、本体にプラスチック樹脂を使用していないのが特徴。耐久性の高いハンドルと替刃式の構造により、長く使い続けられるサステナブルなカミソリとなっている。2026年3月に国際クラウドファンディング Kickstarter にて数量限定のテスト販売を予定している。 遠藤社長「社員のアイデアが形になったことが、何よりの喜びで誇らしい」 PRイベント終了後に行った個別取材で、遠藤社長に今回の新商品について「ご自身が最も誇りに感じるポイント」を尋ねた。 「『なでそり』は、社内のアイデアコンペから誕生した商品なんです。社員の中から新しい発想が生まれ、それが形になったこと。それがまず何より嬉しく、誇らしいところです」と遠藤社長。「カミソリといえばT字、という固定観念にとらわれないデザインであること。そして、技術とパテントもしっかり担保できていることが『なでそり』のユニークさです。貝印の存在意義は“他がやらないことを先んじてやる”こと。挑戦を後押しする文化が根付いているのが、私たちの特徴です」と続けた。 実際、貝印はこれまでも 世界初の三枚刃、世界初の紙カミソリ、そして今回の「なでそり」 を世に送り出してきた。その背景には、社内アイデアコンペなどによって 「アイデアの種」を切らさない仕組み が徹底されている。その根底には、一貫した価値観がある。 「私たちが目指すのは、お客様の“生活の質の向上”につながる製品を世に送り出すこと。野鍛冶のDNAを受け継ぐ社員一人ひとりが発想し、提案し続けます。」と遠藤社長は 力強く言葉を結んだ。 ゲストスピーカーとして和装で登場した俳優の小雪さん 小雪(こゆき)/ 俳優1976年12月18日生まれ、神奈川県出身。1995年から雑誌の専属モデルやショーで活躍し、1998年に俳優デビュー。映画「ラスト・サムライ」「嗤う伊右衛門」「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「わたし出すわ」「信さん炭坑町のセレナーデ」「杉原千畝」「桜色の風が咲く」などに出演。ドラマでは「不毛地帯」「大貧乏」「トップリーグ」「全裸監督」「ブギウギ」「スカイキャッスル」「Dr.アシュラ」など多くの作品やCMに出演 「お母さん、見て」親子で感じた『なでそり』のやさしさ 『なでそり』の使い勝手を試すために、ちょうど毛が気になると言っていた中学二年生の息子の部屋に、そっと置いておいたという小雪さん。数日後、息子が“お母さん、見て”と腕を見せに来てくれたんです」と微笑む。「思春期は特に、毛の処理を親に聞きにくい子も多いと思うのですが、親が教えていなくても直感的に、かつ親も安心して子供が使える良い商品だと実感しました。」小雪さんが実体験から感じた『なでそり』の魅力を語った。 料理の時間は私にとってのヒーリング 韓国によく足を運ぶという小雪さんは、現地では食材をハサミで切る文化があることに触れ、「最初は驚いたのですが、実際にやってみるととても便利で、好きなサイズに手軽にカットできるので、今では欠かせないアイテムになりました。」さらに、自宅のキッチンでは黒やシルバーで色味を統一しているそうで、「貝印のピーラーは色も馴染みますし、切れ味が本当に良くて、じゃがいもなど大きな食材もスルスルと皮がむけるので重宝しています。ピーラーでむいた皮をまとめておいて、出汁に使うことも多いんですよ」と、エピソードを語った。 熟れた梨をジャムにするために皮をむいている写真を示しながら、「子どもが小さな頃から、大人と同じしっかりした包丁を使って、果物の皮むきのお手伝いをしてもらってきました」と、関孫六の包丁のユーザーでその使い心地について触れた小雪さん。 また、家族からの料理のリクエストはお肉料理が多いものの、「お肉ばかりにならないように、果物を一緒に煮込むなど栄養バランスを考え、旬の味を取り入れたりしています」と、自宅での工夫を紹介した。さらに、「忙しい日々だと、ゆっくりキッチンに立つ時間がなかなか取れなくて。だからこそ、休みの日に何時間かキッチンに立って何かを煮込んだり、食材と向き合う時間は、私にとってヒーリングになるんです」と語り、料理の時間が日常に豊かさをもたらしていることを明かした。 外に出て、経験を重ねることで、自分も言葉も育つ PRイベント終了後の個別取材で、仕事とプライベートの切り替えについて尋ねると、小雪さんはこう語った。「私は、メイクをしたり衣装を身に着けたり、リハーサルをしているうちに、一枚一枚“薄皮を重ねる”ように仕事モードになっていくタイプなんです。家にいるときは完全に“自分”なので、朝起きたときは今日も普段の私でしたね」と微笑む。 続いて、これまで『ラスト サムライ』など、国際的な作品にも出演してきた小雪さんに、「未経験の仕事や大きな役に向き合うとき、恐れを感じることはあるか」と質問を投げかけると、「年齢を重ねるほど、未知のものに対する不安や怖さには敏感になるように感じます。『ラスト サムライ』の頃は20代で、毎日がめまぐるしくて。撮影現場での緊張というよりも、アメリカ社会の中で“日本人としてどう存在するか”を問われる状況でした。」と振り返りつつ、「仕事の大小にかかわらず緊張はあります。でも、小さな世界にとどまってしまうと、その中の価値観しか持てなくなってしまう。先入観や恐れに縛られないようにするためには、いろんな社会に触れ、外に出ていくことが大切だと思うんです。その経験が自分を作るのだと思っています。」 さらに、「自分が実際に経験したことなら“自分の言葉”で話せます。でも、聞きかじった、人から聞いただけのことには不安を感じますよね。例えば語学でいうと、英語を学んだつもりでも国や地域によって伝わらないことがある。そこに気づくこともまた経験で、とても意味のあることだと思います。」 価値観を押し付けず、「自分で選ぶ力」を育てる子育て 子どもの教育方針について尋ねると、小雪さんは静かに言葉を選んだ。「これといった“教育方針”はないんです。親が良かれと思ってきた価値観と、令和の価値観はまったく違いますよね。私の親が私に伝えようとしてくれたことが、私が今、子どもに伝えたときに同じように届くかというと、そうではないことも多いんです。」 「例えば英語の教材ひとつをとっても、今の教材はすごく実践的で、『私もこれで学びたかったな』と思うほど。つまり、“昔の常識”をそのまま子どもに当てはめることが、もう通用しない時代なんだと感じています。だからこそ、親である私たちが子ども側に寄り添って学ぶことが大切だと思っています。」 そのうえで、小雪さんは“子どもとの関わり方”についてこう続けた。「私はなるべく『自分の価値観を押し付けないように』努力しています。子どもが“やってみたい”と思ったことは、できる限りやらせてみる。でも、そのあとで“やってみてどう感じたか”は、きちんと話し合います。」 「親の定番である『勉強しなさい』という言葉は言わないんですか?」という問いには、はっきりと「言いませんね」と微笑む。「ただ、子どもが何か質問してきたときには、夜中でも答えます。うちの子たちは今まだ勉強が好きではないかもしれませんが、自分で学びたいことを見つけた時に学ぶと思うのでとやかく言わず、”関わりすぎないように関わっています”、と子どもを信じてそっと支える姿勢が印象的だった。 最後に「10年後、どのような自分でありたいか」を尋ねてみた。 「10年後には子育ても少し落ち着いていると思います。そのときに、自分が“何のために生きているのか”という目的をきちんと見つけて、その場所に身を置けていたらいいなと思っています。」と、静かに言葉を結んだ。